なぜ「正論」を言うほど、部下は離れていくのか?

正論を言うほど部下は離れる

中小企業にとって、人が辞めることは単なる「痛手」ではありません。
採用コスト、引き継ぎ、残ったメンバーへの負担——その影響は、数字をはるかに超えて組織全体に広がります。

そして何より、誰よりも傷ついているのは、あなた自身ではないでしょうか。

「私は間違ったことを言っていない。会社のために、本人の成長のために、正しいことを伝えてきた。なのに、なぜ……」

実は、離職の多くは「待遇」や「仕事内容」が原因ではありません。
「この職場では、自分は認められない」と感じた瞬間に、人の心は静かに組織を離れ始めます。

逆に言えば、「ここでは自分が尊重される」と感じられる職場——心理的安全性の高い組織では、人は辞めません。それどころか、自ら考え、挑戦し、アイデアを出し続けます。
Googleの大規模調査でも証明されているように、心理的安全性は離職を防ぐだけでなく、チームの生産性そのものを底上げする最大の要因なのです。

では、心理的安全性はどうすれば高められるのか。特別な制度も、大きな投資も必要ありません。必要なのは、リーダーの「言葉のかけ方」をほんの少し変えること、それだけです。

このシリーズ「離職を防ぎ、成果を生む対話の技術」全5回では、明日の朝から使える対話の技術を、一つひとつ丁寧にお伝えしていきます。

第1回のテーマは、多くのリーダーが陥っている落とし穴、「正論の罠」です。

目次

正論の罠

ある中小企業の社長から、こんな相談を受けたことがあります。

「先月、また辞めました。入社3年目の、一番期待していた子が。」

社長は続けました。「私は間違ったことを言っていないはずなんです。会社のため、本人の成長のために、正しいことを伝えてきた。なのに、なぜ……」

その言葉の最後は、静かにかき消えました。

あなたにも、心当たりはありませんか?

その部下は、あなたの言葉の「重さ」に、耐えられなかったのかもしれない

指導すればするほど、曇っていく部下の表情。
短くなる返事。
そして、ある日届く一枚の退職願。

「一身上の都合で……」

その言葉の裏に、どれだけの思いが隠れているか。本当のことは、もう聞けません。

一生懸命だったのは、あなたも同じです。だからこそ、この現実は深く刺さる。

「正論」は正しい。だからこそ、人を傷つける

部下がミスをしたとき、私たちはつい言ってしまいます。

「なぜできなかったんだ?」

「これくらい、社会人なら当然だろう」

言っていることは、正しい。でも、ちょっと待ってください。

言われている本人も、「自分が悪い」ことはわかっています。

分かっている。分かっているのに、また責められる。

もしかしたら何か事情があったのかもしれません。

そのとき相手の心の中で何が起きるか——自分を守るためにまるで鎧を着こむように、ガシャンと心の扉を閉ざしてしまうのです。

「もうここでは、何も言わない。余計なことはしない。」

「失敗したくない。だから行動しない。」

次第に無難な意見しか言わない、言われたことしかしない部下になってく。

そして、これが積み重なったとき、職場は静かに、確実に力を失っていきます。

優秀な人ほど、静かに去っていく

今、組織づくりで最も重要とされるのが「心理的安全性」です。
メンバーが「ここでは失敗しても、意見を言っても、一人の人間として尊重される」と信じられる状態のこと。

アドラー心理学の観点からも、同じことが言えます。
「なぜできないんだ(原因論)」という問いかけは、部下に存在そのものを否定されたと感じさせかねず、「自分はここに居ていい」という感覚、つまり居場所を奪います。

「このチームにいても、自分の可能性は信じてもらえない」

そう感じた瞬間、優秀な人ほど静かに組織を去る決断をします。

冒頭の社長が失った「一番期待していた子」も、きっとそうだったのでしょう。

解決策は、正論を捨てることではない

誤解しないでください。正論を言うな、ということではありません。

大切なのは、言葉を届ける前の「心の土壌づくり」です。

ペップトークの第一歩は「受容」。

相手の状況や感情を、ジャッジせずに一旦そのまま受け止めること。

【正論から入る対話】
「なんで報告が遅れたんだ? 社会人として失格だよ」

【受容から始まる対話】
「トラブル対応、大変だったね。最後までやり切ってくれて、ありがとう。」

たったこれだけで、部下の表情が変わる瞬間を、私は何度も見てきました。

「あなたのことを、ちゃんと見ているよ」
「あなたが置かれた状況を、理解しているよ」

そのメッセージが届いたとき、人は初めてあなたの言葉を聴く準備ができるのです。

※受容とは、現状を容認することや同意することではありません。そこからどう行動変容・成長につなげるかは、次回以降でお伝えします。

リーダーの仕事は、「論破」ではなく「点火」

部下の可能性を誰よりも信じて、失敗しても見守り、次の一歩を励ます。

「このリーダーの下なら、失敗を恐れずに挑戦できる」

部下がそう感じたとき、組織の心理的安全性は高まり、離職は止まり、やがて想像を超える成果が生まれ始めます。

あなたの言葉ひとつで、チームの未来は今日から変えられます。

正論の前に「受容」というクッションを

まずは今日、部下の「できていないこと」は一旦受け入れて、受容の言葉をかけることから始めてみませんか?

正論を言いたくなるのは、あなたがそれだけ仕事に真剣だからこそ。

その情熱を、相手を追い詰める「武器」ではなく、相手の可能性を照らす「光」に変えていきましょう。

挑戦するすべてのリーダーを、私は応援しています。

次回は「受容の後、どう行動変容につなげるか」〜ペップトーク実践編〜をお届けします。

ただ講演、研修をして終わりではなく、その後の変化を起こし企業様の繁栄に繋がる関わりを心掛けております。
講演研修のご依頼、お問い合わせはこちらよりお願い致します。

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この記事を書いた人

一般社団法人ひとみらい共育LABO代表理事、一般財団法人日本ペップトーク普及協会理事、プロコーチ、講演家、みどり整骨院院長。ペップトーク、心理学とコーチングを融合した独自メソッドにより、組織の「心理的安全性の向上」と「自律型人材の育成」を支援。経営者やリーダーが発する「言葉」の質を変えることで、離職率の低下やチームの生産性向上に寄与する研修講演をしている。
年間多数の企業研修・講演に登壇し、現場の痛みがわかる実践家としての視点と、心に火をつけるペップトークの技術を融合させた講義は「現場が即座に活性化する」と定評がある。

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